疾患動物情報
- 種類
犬
- 品種
雑種
- 年齢
12歳8ヶ月齢
- 体重
8kg
- 性別
主訴病歴
- 急性の嘔吐
- 食欲廃絶
- 活動性低下
- 発熱
概要
当センターでは、外科手術が必要な重症例に対して周術期を通した集中的入院管理を実施しています。今回は、周術期に重度低血圧を伴うショック病態を呈したものの、生存退院が可能であった消化管穿孔の症例を紹介させていただきます。
術前管理
上記主訴の精査のため来院。各種検査から消化管腫瘤に伴う消化管穿孔が強く疑われました(図1)。低血圧を伴う重度ショック状態を呈していたため、バイタルの安定化後に手術を計画しました。来院直後から酢酸リンゲルによる輸液蘇生と抗菌薬投与を実施しましたが、平均血圧は60 mmHgを下回り、低血圧は改善しませんでした。そこで、ノルアドレナリンの持続点滴を併用し、平均血圧>65 mmHgを維持したところ、意識状態や末梢冷感の改善を認めました。
術中管理
フェンタニルを静脈内投与後、まず観血的血圧モニタリングのために動脈留置を設置しました。麻酔はプロポフォールで導入後、イソフルランにて維持しました。麻酔導入中から血圧の低下を認めたため、ノルアドレナリンを増量したものの、十分な昇圧が得られませんでした。輸液反応性や簡易超音波検査から循環血液量は十分であると判断し、さらにバソプレシンとアドレナリンの持続点滴を併用し血圧を維持しました。
術後管理
麻酔覚醒後も、循環作動薬から離脱できず、意識レベルも傾眠でした。そのため、入院室でも観血的血圧モニタリングを継続しました。簡易超音波検査では、心内腔の狭小化と胃内液体貯留を認め、循環血液量の低下が疑われました。そこで、新鮮凍結血漿を投与したところ、投与開始後から血圧は上昇傾向を示し、意識レベルの改善と尿量の増加を認めました。その後、循環作動薬を順次漸減し、最終的に3剤全てから離脱しました。手術翌日も血圧をはじめとするバイタルは安定し、術後2日目から食欲も自力摂食が可能なレベルまで改善、最終的に大きな術後合併症なく退院しました。
考察
本症例の生存退院に寄与した要因の一つに、周術期を通した循環管理が挙げられます。獣医学領域では情報が少ないものの、医学領域では低血圧が周術期合併症の発生率を増加させることが明らかになっています。今回は循環管理にフォーカスしましたが、実際は多角的に全身の生体機能をモニタリング・治療することが求められます(図2)。当センターでは栄養管理や疼痛管理、リハビリテーションなどにも積極的に取り組んでおり、愛玩動物看護師と連携した愛護的入院管理も非常に重要であると考えています。