疾患動物情報

  • 種類

  • 品種

    フレンチ・ブルドッグ

  • 年齢

    1歳10ヶ月

  • 体重

  • 性別

    避妊メス

主訴病歴

  • 活動性の低下
  • 発熱(39.8℃)

病歴

活動性の低下と発熱(39.8℃)のために紹介動物病院を受診されました。血液検査において白血球減少症(2,700/μL)とCRPの上昇(8.3 mg/dL)が認められました。抗菌薬の投与を行なったところ、CRPは基準範囲まで低下したが白血球数は1,900/μLと減少したままでした。当センター東京病院 血液内科の初診時には、活動性や食欲は回復傾向にあったが、健常時の状況にまでは戻っていませんでした。

検査および診断

体温は38.0℃であり、身体検査上の異常は認められませんでした。血液検査において白血球数1,600/μL(分葉核好中球 220/μL, 単球 390/μL, リンパ球 990/μL)と依然として好中球減少症が続いていており、血液塗抹において好中球に退行性(中毒性)変化は認めらませんでした(図1)。

図1 紹介時の末梢血液(×200)
著しい好中球減少症(220/μL)が認められる

CRPも<0.9 mg/dLの値が続いていたことから、本例における好中球減少症は、感染・炎症によって起きる好中球の消費によるものではないと判断されました。骨髄検査では、骨髄球系細胞が骨髄有核細胞の80%以上を占めており、骨髄芽球から分葉核好中球までの分化成熟に異常は認められず、とくに桿状核好中球の比率が高くなっていました(図2)。そのため、本例の好中球減少症は骨髄における好中球産生低下によるものでもないことが示されました。

図2 骨髄穿刺細胞診(×1000)
未熟な骨髄球系細胞から成熟した桿状核・分葉核好中球までの分化増殖が観察される

治療

以上の所見から、本例における好中球減少症は免疫学的破壊によるものと考え、免疫抑制量のプレドニゾロンとシクロスポリンの併用療法を開始しました。好中球数は14日目までは基準範囲未満であったが、17日目には3,000/μLを超え、19日目以降は10,000/μL以上の値が続きました(図3)。その後、徐々にプレドニゾロンの漸減を行い、3ヶ月経過後の再診時においても好中球減少症の再発は認められませんでした。

図3 プレドニゾロン(2 mg/kg/day)とシクロスポリン(12 mg/kg/day)の併用療法時における好中球数の変化
17日目から基準範囲内(≧3,000/μL)に回復

本疾患について

「好中球減少症があり、その原因が、病歴、投薬歴、身体検査、画像検査、および各種臨床検査によって同定されず、免疫抑制療法によって好中球数が基準範囲まで回復する」場合にIMNPと診断されます。IMNPは比較的若齢の犬で発生することが多く、4歳未満で有意に発症リスクが高いことが示されています(Brown CD et al., 2006)。また、IMNPでは他の要因による好中球減少症よりも顕著な好中球減少症が認められることが多いです。Devineら(2017)はIMNPの犬35頭のうち22頭で1,000/μL未満の好中球減少症が認められたと報告しています。犬において好中球減少症が認められた場合、敗血症や骨髄疾患について十分な注意をする必要がありますが、これらを鑑別した上でIMNPを考慮します。IMNPでは、年齢や好中球数に特徴があり、ほとんどの場合18日以内に免疫抑制療法に反応して好中球数の回復が認められます。

執筆者

血液内科 科長

辻本 元