疾患動物情報

  • 種類

  • 品種

    ヨークシャー・テリア

  • 年齢

    11歳8ヶ月齢

  • 体重

    4.4 kg

  • 性別

    オス

主訴病歴

  • 呼吸困難

頚部気管虚脱とは

小型の犬(ポメラニアンやヨークシャーテリアなど)において遭遇することが比較的多い疾患で、気管が平坦化した結果、咳や呼吸困難を引き起こします。重篤な例では肺水腫の発症といった致死的状況に陥る場合もあることから、積極的な治療が必要とされています。症状に対する治療としては酸素室でのケージレストやステロイドなどを用いた内科的な治療から、自己拡張性のステントを用いた気管拡張術や気管外プロテーゼを用いた外科的矯正術が選択されます。

症例

喘息のような呼吸様式になり、2日ほど様子を見ていたが症状の悪化を認めたためかかりつけ医を受診されました。かかりつけ医での検査にて頚部気管の虚脱を認め、内科的治療による症状の軽減が得られたため、当センターまでの移動が可能と判断し、4日後当センター受診となりました。来院時の症例はいわゆる「ガチョウの鳴き声」のような異常呼吸音を伴う呼吸困難を呈していました。

診断と治療

X線検査、CT検査、気管内視鏡検査といった画像検査により(図1)、重症度ではグレード4に相当する頚部気管虚脱と診断しました。

図1 術前X線検査
頚部気管が虚脱し狭窄している

気管外プロテーゼを用いた外科的矯正術の実施により(図2a、b)、術前にみられた呼吸困難の症状は消失しました(図3)。

図2a 術中写真
重度に扁平化した気管
図2b 術中写真
自己拡張性のプロテーゼを逢着し拡張した気管
図3 術後X線写真
図1と同部位がプロテーゼにより拡張され、狭窄が解消している

まとめ

気管虚脱に対する治療として、当センターでは気管内ステント設置術と気管外プロテーゼによる外科的矯正術を実施しています。気管内ステントは、ステントサイズの選択が難しく、サイズが合わなければステントのずれの原因となりうるリスクがあります。一方、気管外プロテーゼでは、気管内に異物を残さないため、気管への刺激が少なく、術後に麻酔が必要になる際も比較的容易に挿管ができます(ステントをずらしてしまうリスクがない)。このように当診療科では治療のメリットとリスクを評価し各症例治療に臨んでいます。

執筆者

循環器・呼吸器科 医長

佐々木 崇文