疾患動物情報

  • 種類

  • 品種

    MIX(ポメラニアン×ダックスフンド)

  • 年齢

    1歳

  • 体重

    -

  • 性別

    -

主訴病歴

  • 左後肢跛行

犬の骨嚢胞について

骨嚢胞は主に四肢の長骨に発生する嚢胞状の病変の総称であり、単純性(単房性)、動脈瘤性、軟骨下に分類されます。犬では非常に稀な疾患であり、その病態発生についても不明な点が多いです。大半の骨嚢胞は無徴候であり偶発的に発見されますが、少数ながら進行の早いパターンも存在します。嚢胞の存在する部位では物理的強度が著しく低下するため、病的骨折をいかに防ぐかが治療のポイントとなります。

症例

1歳のMix犬(ポメラニアン×ダックスフンド)、左後肢跛行を主訴として紹介元病院を受診しました。X線検査で左脛骨近位にX線透過性の高い領域が確認され、その後この病変が顕著に拡大し(図1)、跛行も悪化していきました。当センター初診時、患部周囲に顕著な圧痛や軟部組織の腫脹はありませんでしたが、立位時には患肢をほぼ挙上していました。X線検査では病変はさらに悪化しており(図2)、CT検査では脛骨近位の皮質骨が著しく菲薄化、あるいは欠損していること(図3)、病変の内部には充実性の構造が存在しないことが示唆されました。生検が必要と思われましたが、病的骨折のリスクがかなり高い状態になっていたことから、オープンバイオプシーを実施することとし、同時に嚢胞部を物理的に補強する方針としました。

図1 紹介医初診時の脛骨近位
図2 当センター初診時
(図1から4週間後)
図3 CT画像処理による3D像

手術

最も皮質骨が欠損していた脛骨の頭外側面から嚢胞へアプローチしました。嚢胞を取り囲む被膜状の病変を摘出して内腔を観察すると、若干の血液がある程度でほぼ空洞でした。嚢胞を内張りする組織をできる限り掻爬し、病的骨折への対策として嚢胞内腔への骨セメント充填を実施しました(図4)。

図4 手術直後
図5 術後1年

診断と経過

病理組織学的検査では骨嚢胞と診断されました。手術翌日には、跛行の悪化はなく患肢を負重できていました。術後1ヶ月では歩様も概ね正常化し、X線検査においても悪化はなく骨セメントと骨組織の間隙が消失してきていました。その後も加療を必要とするような合併症はなく、術後1年には跛行は完全に消失し、骨セメントは骨皮質の中に埋没しているように観察されました(図5)。

考察

本疾患は急速に嚢胞が拡張していく珍しいタイプの骨嚢胞でした。病変が脛骨粗面直下にあり、かつ病変の進行が著しく速かったことから、骨折リスクが非常に高く迅速な対応が必要と考えられました。骨嚢胞に対する手術法としては、病変の切除や掻爬は不可欠ですが、その後に行う病的骨折への対策として、人工骨の埋め込み、プレートなどのインプラントによる補強、そして骨セメント充填などが報告されています。今回は骨セメント充填で大きな合併症を生じることなく十分な結果を得られましたが、負重骨に対する骨セメント充填で十分な強度が得られるか否かについては議論もあり、他法の併用などについても今後検討していく必要があります。

執筆者

脳神経・整形科 医長

越後 良介