疾患動物情報
- 種類
猫
- 品種
マンチカン
- 年齢
7歳3ヶ月齢
- 体重
2.9㎏
- 性別
避妊メス
主訴病歴
- 右尿管閉塞(尿管結石)
猫の尿管膀胱新吻合術は尿管の閉塞に対する他の術式と比較して中長期的な再閉塞率が低いことはJARMeC NEWS vol.15と本ウェブサイトで報告しました。この結果を踏まえ、当センターでは猫の尿管閉塞に対しては尿管膀胱新吻合を第一選択として実施しています。2023年の手術実績は表1の通りです。
術式 | 例数 |
---|---|
尿管膀胱新吻合 | 204(79.7%) |
尿管切開 | 40(15.6%) |
SUB | 12(4.7%) |
計 | 256(100%) |
成績向上のために ~低侵襲な腎盂結石摘出~
尿管閉塞の手術を行った場合でも、腎盂内に結石が残存していると術後に結石が尿管に移動し再閉塞の原因となりえます。ただし、腎切開による腎盂結石摘出は侵襲が強く、推奨されていません(ACVIMレコメンデーション2016)。そこで当センターでは、腎盂尿管スコープおよびバスケット鉗子を用いた低侵襲な腎盂結石摘出を可能な限り実施しています。
症例
元気食欲の低下、嘔吐を主訴にかかりつけ医を受診しました。血液検査で高窒素血症(BUN>140 ㎎/dL,CRE13.2 ㎎/dL)を認め、画像検査で、結石による上部尿路閉塞を認め、点滴治療を行ったものの改善を認めないことから当センターを紹介受診しました。
診断および治療方針
X線検査では、腎臓内結石および尿管結石を(図1)、超音波検査では、左側の尿管結石および重度の水腎症、右側の近位尿管結石による尿管閉塞と腎盂内結石、腎臓腫大を認めました(図2)。
画像検査により、両側尿管の不完全閉塞、左水腎症(重度)、右尿管閉塞(腎盂内結石・尿管結石)が問題となっており、内科治療での改善は期待できないことから、早急に外科アプローチを行うこととしました。
手術
腎盂内に結石が存在する右側尿路は、再閉塞率の低い尿管膀胱新吻合術を実施するとともに、近位尿管切開部位から先端2.8 mmの腎盂尿管スコープを挿入し、バスケット鉗子を用いて腎盂内の結石を摘出しました(図3a,b)。左腎盂拡張は重度であり、腎機能の残存は少ないと考え、尿管切開による結石摘出を実施しました。また、腎機能の残存が期待できる右腎臓には腎瘻チューブを設置しました。
腎盂内結石摘出の合併症は認めず、順調に高窒素血症は改善し、術後7日目に退院となりました。現在、術後半年を経過しますが、尿管閉塞の再発は認めておらず、経過は良好です。
まとめ
今回の症例のように、腎盂尿管スコープを用いた腎盂結石摘出術は腎実質を損傷することがないため、術中の出血や術後の腎機能低下などを引き起こすことなく、安全かつ低侵襲に実施することができます。当センターでは、患者さまや疾患の状況に合わせて最適な方法を常に検討し、尿管閉塞の中長期的な予後も含めた治療成績の向上に努めています。
参考文献
・Lulich JP, Berent AC, Adams LG, et al. ACVIM small animal consensus recommendations on the treatment and prevention of uroliths in dogs and cats. J Vet Intern Med 2016 Sep; 30(5): 1564-1574.
doi: https://doi.org/10.1111/jvim.14559